片頭痛とは
片頭痛とは、発作的に始まり、4~72時間持続する、頭の片側または両側で生じる痛みのことを指します。「片頭痛」という名前ですが、実際は全体のうち片側で起こるタイプが約60%、両側で起こるタイプが約40%と、両側性の片頭痛もよく見られます。
痛みの出方としては、ズキンズキンという拍動性が特徴として挙げられます。また片頭痛が現れているあいだは、さまざまな刺激に敏感になります。普段は気にならないような光・音・においなどが不快に感じられ、吐き気・嘔吐などを伴うこともあります。そのため、職場や学校に行く・いるのが辛いと感じ、日常生活に支障をきたす方が少なくありません。
片頭痛の症状
頭痛には、一次性頭痛と二次性頭痛があります。二次性頭痛がくも膜下出血や脳出血、脳腫瘍などの病気を原因とするのに対して、一次性頭痛では特に原因疾患がありません。
そして片頭痛は一次性頭痛に分類されます。一次性頭痛には他に緊張型頭痛と群発頭痛がありますが、特に片頭痛では以下のような特徴が見られます。
頭の左右の片側または両側が痛む
片頭痛のうち約60%が頭の片側に、残りの約40%が頭の両側に、それぞれ現れます。
拍動性の痛みがある
拍動性の痛みとは、ズキンズキンと脈打つような痛みのことを指します。
発生後4~72時間持続する
片頭痛は発作が始まると、4~72時間持続します。72時間以上続く場合には、他の病気が疑われます。
光・音・においに敏感になる
普段であれば気にならない程度の光、音、においに敏感になり、不快感が生じることがあります。「静かな暗い部屋で休みたい」と感じる人も多いようです。
吐き気・嘔吐を伴うことも
痛み、そして光・音・においなどに対する過敏性から、吐き気や嘔吐に至る人もいます。片頭痛は、消化器の動きにも影響すると言われています。
前兆として閃輝暗点が生じることも
片頭痛発作が始まる5~60分前から、視界にチカチカ・キラキラと光が発現する「閃輝暗点(せんきあんてん)」が生じることがあります。閃輝暗点は、片頭痛持ちの人の約30%に認められる前兆症状です。
日常生活に支障が出やすい
頭痛そのもの強さ、光・音・においへの過敏性、吐き気・嘔吐などの症状、あるいは「片頭痛が起こったらどうしよう」という不安感から、仕事・勉強・家事・プライベートなどの日常生活に支障が出やすい頭痛と言えます。
頻度はさまざま
片頭痛の頻度は人それぞれです。年に数回というケースもあれば、数日ごとに1回というケースもあります。
頭痛のタイプ、片頭痛との違いは?
片頭痛以外の一次性頭痛、つまり緊張型頭痛・群発頭痛について、それぞれ特徴を説明いたします。
【緊張型頭痛】
頭全体が締め付けられるように痛む頭痛です。一次性頭痛の中で、もっともよく見られます。痛みの強さは、片頭痛ほどひどくありません。
頭や肩、首などの筋肉の緊張、ストレスなどが原因と言われています。
片頭痛と緊張型頭痛の両方を持っている人も少なくありません。
【群発頭痛】
じっとしていることも難しいほど強い片側性の痛みが、年に1~2回の頻度で発生する頭痛です。その痛みはしばしば「目の奥をえぐられるような」と表現されます。また発生時には1~2カ月間、毎日ほぼ決まった時間帯に上記の激しい頭痛が現れます。
ただし、群発頭痛の有病率は1%未満であり、片頭痛・緊張型頭痛と比べると珍しい頭痛と言えます。
圧倒的に男性に多い点も特徴の1つです。
片頭痛 | 緊張型頭痛 | 群発頭痛 | |
---|---|---|---|
持続時間 | 4〜72時間 | 30分〜7日間 | 15〜180分 |
程度 | 中等度〜重度 (痛みで動きたくない) |
中等度 (動いている方が楽に感じられる) |
きわめて重度 (痛みでじっとしていられない) |
性状 | ズキズキとした拍動性のある痛み | 頭全体が締め付けられるような痛み | 目の奥をえぐられるような痛み |
部位 | 片側/両側 | 両側 | 片側 |
随伴症状 | 吐き気・嘔吐 光過敏・音過敏・におい過敏 閃輝暗点 |
肩・首のこり | 目の充血 涙があふれる 鼻水 顔面の発汗 |
有病率 | 8.4% | 22% | 0.4% |
片頭痛の原因
片頭痛は、複数の誘因が引き金となり三叉神経(口内粘膜、歯・歯茎の感覚を司る神経)が刺激され、炎症・血管拡張が生じることで発生するものと考えられています。
誘因には、体質、ストレス、睡眠不足・過眠、飲酒、光・音・におい、月経、天候などが挙げられます。疑わしい誘因がある場合には、それを避けることで、片頭痛のリスクを下げるようにしましょう。
片頭痛の対処療法
片頭痛の患者様が、頭痛治療薬や漢方薬を頻繁に使用しすぎると、次第に頭痛の発生頻度が増え、連日頭痛に悩まされるようになります。この状態を「薬剤の使用過多による頭痛」と呼びます。
この頭痛は、痛みに対する不安から早めに薬を服用したり、頭痛がないときにも薬を飲んでしまうことで、薬の効果が薄れ、さらに頭痛が悪化するという悪循環を引き起こします。このような状態に陥らないためには、頭痛にならないための予防が大切です。
片頭痛予防について
抗CGRP抗体薬
抗CGRP抗体薬(エムガルティなど)の使用により頭痛発作を減らすことで生活の質の改善や頭痛薬使用量の減少へ寄与します。
抗CGRP抗体薬についてはガルカネズマブ(エムガルティ)、フレマネズマブ(アジョビ)、エレヌマブ(アイモビーク)の3種類がありますが、当院では特にエムガルティを用いることが多くあります。
当院の片頭痛の予防薬
(発症抑制薬)
エムガルティ
2021年に認可を受けた、新しい片頭痛予防薬(発生抑制薬)です。
月1回ご来院いただき、注射投与します。
従来の予防薬で十分な効果が得られず、月4日以上の発作があり日常生活に支障をきたしている等の条件に当てはまる場合に使用可能です。
エムガルティの効果
- 片頭痛の発作回数の減少(頻度が低くなる)
- 痛み、および随伴症状の軽減
- 急性期治療薬が効きやすくなる
- 日常生活での支障が抑えられる
臨床試験では、6カ月で約60%の症例において、発作日数が半減しています。また、発作日数がゼロになるという方もいらっしゃいます。
エムガルティ注射の対象となる方
エムガルティ注射は、以下の方が対象となります。
- 18歳以上
- 片頭痛の診断を受けた
- 3カ月以上、1カ月あたりの片頭痛発作の平均日数が4日以上である
- 他の片頭痛予防薬を使用しても十分な効果が得られなかった(または安全上、他の予防薬を使用できなかった)
- 日常生活に何らかの支障が出ている
- 1年以内に頭部MRI・MRA検査を受けた
- 3カ月以上、頭痛ダイアリーをつけている(他院からの紹介の場合・当院初診の場合)
※妊娠中の方・授乳中の方は、有益性投与となります。胎児・赤ちゃんへのリスクよりも、母体・お母さんへの投与が有益であると判断された場合にのみ投与可能です。
フレマネズマブ(アジョビ)
片頭痛は、「CGRP」という物質が脳の血管に作用して起こるとされています。 アジョビは、「CGRP」に結合し、働きを抑えることで、片頭痛を起こりにくくする効果が期待できます。
4週間(1ヶ月)ごとに1回1本、もしくは、12週間(3ヶ月)ごとに1回3本のペースで注射を継続します。
エレヌマブ(アイモビーク)
アイモビークは他の2剤と異なりCGRP抗体としてCGRP受容体に結合し、その働きを抑えることで、片頭痛の発作回数や頭痛の強度を減らします。
4週間に1回 (1本)の投与となります。
エムガルティの流れ
1. 診察
問診、診察、エムガルティの説明、血液検査を行います。
適応となる場合、ご相談の上、初回投与日を決定します。
2. エムガルティ注射
投与日にご来院いただき、医師・看護師がエムガルティを注射投与いたします。
3. 観察・次回来院
副作用の確認のため、30分ほど院内でお待ちいただきます。
異常がなければ、1カ月に1回ご来院いただき、継続的に注射投与していきます。
4. 確認
エムガルティの効果の評価、異常の有無を確認いたします。
何か異常を感じた場合には、受診のタイミング以外でも、すぐに当院にご連絡ください。
エムガルティの副作用
これまでに、主に以下のような副作用が報告されています。
- 注射部位の痛み・かゆみ・腫れ(約10%)
- アナフィラキシー(ごく稀)
エムガルティのよくある質問
エムガルティは、どのように使用しますか?
エムガルティ(ガルカネズマブ)は、1カ月に1回、ご来院していただいた上で注射投与します。
注射方法など問題なければ自己注射にてご自宅で使用いただくことも可能です。
エムガルティを使用している期間、片頭痛発作に対して急性期治療薬を使用しても構いませんか?
予防薬であるエムガルティに急性期治療薬を併用することは可能です。また、エムガルティの使用によって、急性期治療薬が効きやすくなるということが期待できます。
エムガルティを打ち忘れてしまった場合、どうすればいいですか?
気がついたときに1回分を注射し、その日から1ヵ月後を次の注射日としてください。わからないことがあれば、主治医に相談しましょう。
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構から引用
外傷性脳損傷であっても、エムガルティは使用可能ですか?
添付文書上では制限はございません。しかし、「ガルカネズマブ(エムガルティ)の第II相及び第III相試験」においては、頭痛の性質・頻度に大きく影響するような外傷性頭部損傷の既往がある人は除外されています。
エムガルティの月経に関する副作用は報告されていますか?
国内外の臨床試験では、月経困難症、不規則月経及び子宮痙攣、月経過多、月経障害、月経前痛及び腟出血各、乳房分泌及び乳房圧痛が報告されていますが、いずれも発生頻度は0.1%未満です。ご不安な点がございましたら、お気軽に医師にお尋ねください。